東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)42号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨および本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決が本願考案と先願考案との間に存する技術思想および構成上の根本的な差異を看過し、両考案が同一であるとの誤つた認定判断をした旨主張するけれども、右主張は、以下説示するとおり、理由がないものといわざるをえない。
1 前記本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証および第四、第五号証(本願考案の明細書および訂正書)を総合すると、本願考案の明細書には、本願考案は、煮沸消毒、蒸気消毒をすることができ、かつ、構成が簡単、堅牢であり、しかも、納豆として数個の積重に耐え、また、納豆を簡単に包装しえて、これを衛生的に保存しうる納豆包装用苞を得ることを目的とし、この目的を達するため、前記本願考案の要旨のとおりの構成を採つたものである旨記載されていることを認めることができ、他方、成立に争いのない甲第七号証(先願考案の公報)によると、先願考案は、その実用新案登録請求の範囲に記載のとおり、「藁を並設し、其の両端部表裏に、2対1の割合で可撓性に富む針金を配置し此れ等針金を波形状に彎曲しながら藁を織成して本体を形成し、本体上に其れと同形で且納豆の材料を全部又は大部分包装する粗目布を載置し、藁を本体と同様に織成して形成した支止片を本体の中央部に対設した事を特徴とする納豆用苞」(別紙第二の図面参照)であり、納豆菌の繁殖を助長し、味覚優秀な納豆を製造しうるとともに、夏季等においても通風良好で納豆が熟成過度になることを防止する納豆用苞を得ることを目的として、右実用新案登録請求範囲記載の構成を採つたものであることを認めることができる。しかして、本願考案と先願考案との前認定の構成を対比すると、(イ)本願考案において、中板を外装板の中央部前後にわたり配置したものであるに対し、先願考案においては、本体の中央部に支止片を対設したものである点および(ロ)本願考案において、外装板および中板上に外装板と殆んど等大のセロフアンを配置して、それら積重物をホツチキス針をもつて上下から定着しているに対し、先願考案においては、本体上で支止片の下側に粗目布を配した点の二点において、両者は相異なる(叙上の相違点は、原告の認めるところである。)。
原告は、両者の右構成上の差異は同一性をもつて論じえない根本的なものであるとし、まず、(イ)の構成上の相違により、本願考案の納豆包装用苞は二重底で強じん性があり、先願考案のものより倍量の納豆を収納することができ、二重底であるため、納豆の有する粘液の滲出を防止しえ、納豆包装後ゴム環を掛廻しても型崩れがないうえ、先願考案に比し、包装した納豆を平面的に秩序よく多数積重しうる等の効果があるから、上記の相違は両考案の価値の根本的相違を招来する旨主張する。しかし、本願考案において、中板は外装板と相俟つて納豆を包装するに当たり、箱状苞の前、後壁を形成することを主たる機能とすることは、その構成に徴し、極めて明らかなところというべく、この中板の有する機能は先願考案において本体上に対設せる支止片が果たす機能と何ら異なるところはなく、本願考案において中板が外装板の前後にわたつて設けられている結果、苞が二重底となり強じん性を増す旨の原告主張の効果も、納豆包装用苞として中板の果たす前記機能からみると、本願考案の明細書記載の前示目的にもかかわらず、全く附随的なものに属し、したがつて、この点の構成に先願考案を超えた格別の技術思想があるものといいえないことはもとより、その効果も納豆包装用苞として特に有意義なものとは到底認め難い。また、原告が本願考案の上記相違点に基因するその余の効果として主張するところは、先願考案においても、前認定の構成に照らすと、程度の差はあれ、これを有するものと認められるから、格別の効果ということはできない。叙上認定したところにかんがみると、先願考案の支止片に代えて本願考案の中板をもつてすることは、当業者がその技術常識上容易になしうる単なる設計変更にすぎない程度のものとみるを相当とする。
次に、(ロ)の相違点に関し、原告は右相違の結果、本願考案はホツチキスの定規に前後の縁辺を当接してホツチキス針を打ち込めば、中板屈曲により生じた前、後壁が同高となり、また、セロフアンを外装板と中板上に載置しホツチキス針をもつて定着するから、中板を起立させ外装板をもつて包装すると同時にセロフアンで納豆全部を包装することができ、衛生的であるに対し、先願考案はこのような効果を生じえない点で、両者は根本的に異なる旨主張する。しかし、前認定の先願考案の構成に徴すると、先願考案においても、ホツチキスの定規に前後の縁辺を当接してホツチキス針を打ち込めば、支止片を起立させた場合、前、後壁が同高となることは明白であり、また、成立に争いのない甲第九号証によると、塵埃付着防止の衛生的見地からセロフアンを食品等の包装に用いることは極めて周知の手段であるから、先願考案の粗目布に代えてセロフアンを用い、あるいは、上記の見地に基づき包装するに当たり、セロフアンの配置位置を適宜変更するようなことは、慣用手段の変更または付加にすぎないものと認めるのが相当である。なお、中板を起立させ外装板で包装すると、セロフアンで納豆全部を包装しうるとの点は、セロフアンの配置位置を適宜変更したことに伴う当然の効果にすぎず、また、その他の(ロ)の相違点に関し、原告の主張する本願考案の効果も、その効果自体格別のものというをえない。
したがつて、本願考案と先願考案の上記の相違は、両考案の同一性を害するものではなく、原告の叙上の各主張は、いずれも採用することができない。
2 原告は、本件審決は本願考案と先願考案との差異を判断するに当たり、本願考案の具体的技術思想を無視して認定判断をし、誤つた結論を導いた旨主張するが、前説示のとおり、先願考案の支止片および粗目布ならびに本願考案の中板およびセロフアンの考案全体に占める技術思想を勘案すると、本件審決のこの点についての認定判断には何ら原告主張のような違法はないものというべきである
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。
本願実用新案の考案の要旨
藁イを適当の本数並置し、これに適当の間隔置きに糸条、線条等を絡着して外装板1を設け、その中央部に同様構成の中板2を外装板1の前後にわたり、しかも、藁ロが外装板1と十字状に交叉する様に配置し、その上に外装板1と殆んど等大なセロフアン3を配して、それら積重物の前後縁辺から、中板2、セロフアン3を折り曲げて立壁を構成しうる間隔を置き、ホツチキス針4をもつて、それら積重物をともに上下から定着し、かつ、外装板1およびセロフアン3を上方へ折曲して包装したとき、それらの両側縁部が確実に重合しうる様に形成した納豆包装用苞。
(別紙第一の図案参照)
本件審決理由の要点
本願実用新案の考案(以下「本願考案」という。)の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、本願実用新案登録出願前の出願にかかる実願昭三八ー一〇、七九八号(実公昭四〇ー一一,一七六号公報参照)(以下「先願考案」という。)明細書の実用新案登録請求の範囲には、「藁を織成して本体を形成し、本体上に其れと同形で且納豆の材料を全部又は大部分包装する粗目布を載置し、藁を本体の中央部に対設した納豆用苞」が記載されている。そこで、本願考案と先願考案とを対比検討するに、(イ)本願考案は中板を外装板1の中央部前後にわたり配置したものであるに対し、先願考案のものは本体の中央部に支止片を対設したものである点、(ロ)本願考案は外装板および中板上に外装板1と殆んど等大のセロフアン3を配置して、それら積重物をホツチキス針4をもつて定着したものであるに対し、先願考案のものは本体上であつて支止片の下側に粗目布を配したものである点において相違するが、相違点(イ)については、本願考案は、中板の藁が外装板の藁と十字状に交叉されているため、二重底となるものであるが、納豆苞には別段強じん性が要求されないから、二重底であることに意味はなく、したがつて、中板の藁は、もつぱら外装板で納豆を筒状に包んだ場合生ずる前後の2面の包装されない面の包装の目的のためのものであると認められ、先願考案の支止片もまさにこの目的のためのものであるから、本願考案において二重底としたことは、単なる設計上の変更により適宜にできることであり、また、相違点(ロ)については、本願考案においてセロフアンを配置することは、一般にセロフアンは食品等の包装に用いられる極めて周知の包装材であり、先願考案の粗目布に代えて、または新たにセロフアンを配置すること、およびセロフアンの配置位置を適宜にすることは、単なる慣用技術の変更または付加にすぎないものと認められる。したがつて、本願考案は先願考案と別個の考案を構成するものとは認められず、結局、両者は同一考案と認められるから、本願考案は実用新案法第七条第一項の規定により実用新案登録を受けることができない。
別紙第一
第1図
第2図
第3図
第4図
別紙第二
第1図
第2図
第3図
第4図